売買契約済み土地、引渡し前に相続開始

 先の年金受給権二重課税禁止の最高裁判決は、その解釈によっては、現行所得税体系の根幹を揺るがしかねないと言えます。
 相続税と所得税の二重課税を招来させる課税事象は幾つかありますが、その1つ、「土地の売買契約締結後、その引渡し前に相続開始」の課税関係も二重課税にあたるのではないかと思料されます。

相続における課税財産は何か
上記のように売買契約後、引渡し前に相続開始が起こったとき、相続における課税財産は「土地の所有権」なのか、それとも「売買代金(残代金)請求権」なのか。最高裁は、「残代金請求権」とし、その評価(価額)は、当該売買契約により顕在している契約上の取引価額であると判示しました。
 また、課税当局も「国税庁資産税課情報」を発遣し、概ねこの最高裁の判決を踏襲し現在に至っています。

譲渡所得の申告者は誰
 相続人は、引き渡すべき「土地」を相続していませんが、相続した残代金請求権を実現するために、当然ですが、売買契約上の土地を引渡す義務を負います。その結果、原則、相続人に譲渡所得の申告義務が発生します。

年金受給権=残代金請求権
この「売買契約締結後、引渡し前に相続開始」における、相続税と所得税の取扱いは、年金受給権の二重課税の問題と本質的に異なるところはありません。
 年金受給権も残代金請求権もいずれも相続開始と同時に承継する「債権」であり、単にその価額(評価方法)において違いがあるだけです。
そして、債権たる受給権・請求権が具体的に金銭の給付という形で実現した時に所得税の課税義務を負う。まさに、所得の区分、雑所得か譲渡所得かの違いだけで全くその本質は同じです。
 このように、「売買契約締結後、引渡し前に相続が開始」した場合における相続税の課税財産を「残代金請求権」とする課税上の取扱いが存続する限り、それに伴って派生する「譲渡所得の申告」は「相続税」と「所得税」の二重課税を招来するものと言わざるを得ません。
 もっとも、譲渡所得の申告に関して、契約ベースで申告(被相続人の準確定申告)すればこの二重課税の問題は生じませんが、それは、本質的な議論とは言えません。